幼児期は成長がめざましく、人生の土台となるとても大切な時期です。

 

今回は、親子の信頼関係がもととなる心の安全基地についてお話します。


親子の愛着で築く、心の安全基地

 

 まだ言葉を発しない赤ちゃんの頃―。赤ちゃんは、お腹が空いたり、暑かったり、おむつが気持ち悪かったりすると不快な気持ちを泣いて表現します。赤ちゃんが泣きやむには、ミルクをあげたり、おむつを替えたり、周りの大人が寄り添って、不快を取り除いてあげることが必要です。

 

 これは、赤ちゃんだけに限ったことではありません。乳幼児は、不安なことがあったら身近な大人を頼ります。そして、大人が「きつかったね、大丈夫よ」と寄り添い、安心させることで親子は信頼関係や愛着を築いていきます。

 

 子どもは、この信頼関係や愛着が十分に満たされていくと、自分には守ってくれる人がいて、味方になってくれる存在があると認識するようになります。これをイギリスのボウルヴィという精神科医は、「心の安全基地」と表現しました。心の安全基地が出来ることで親子だけの世界から、外の世界へ飛び出し、挑戦してみようという自信につながっていきます。


心の安全基地は、成長に欠かせない土台

 

 子どもたちは成長するにつれて、多くの他者と関わりながら決まりやルール、勉強など生きていくための力を備えていきます。その土台となるのが、心の安全基地の存在です。

 

 心の安全基地をつくるには、子どもの成長に「寄り添うこと」が必要です。例えば、お友達をすぐ叩いてしまう場合。「ダメでしょ!」と強く言い聞かせるだけでは、子どもにはメッセージがうまく伝わりません。こんな時は、「どうしたの?」、「叩いてしまうくらいの何かがあったのかな?」と子どもが嫌な気持ちになったことに寄り添い、その上で叩くのはいけない事だと伝えていきます。また、他に嫌な気持ちを伝える方法を一緒に考えてみるのもいいでしょう。寄り添って共感する、これが成長に欠かせない心の安全基地を作るポイントです。


心の安全基地は、穏やかなやりとりの積み重ね

 

 皆さんのお子さんは、予定通りにいかないことがあったとき、どんな状態になりますか。泣きわめき、手がつけられない状態になり、親も怒り爆発というケースはよくあります。

 

 この時、子どもの脳は、怒りを感じる物質(アドレナリン)が出て、戦闘モードに入っています。その時に、親が怒りすぎると、さらにアドレナリンが出て子どもの怒りが長引くこともしばしばです。こんな時は、事前に予告をしておいてあげましょう。見通しを立てて、予定と違った時にどうするかも伝えておくのです。そうすることで、親子でイライラせずに穏やかに過ごすことができますよ。

 

 このような穏やかなやりとりを積み重ねることで、心の安全基地は作られていきます。また、子どもは、親に寄り添ってもらった経験が力になり、感情のコントロールを身につけていくのです。


親子でつくる心の安全基地

 

 昔の子どもは、いろいろな大人の中で成長できる環境にありましたが、今は距離の近い親子関係の中だけで育つ子どもがほとんどです。子育てをしていると子どもとの距離が近すぎて、客観的に物事を見られなくなることもあるかと思います。もし、しつけやルールなどがうまく伝わらないなと思っている方がいたら、心の安全基地は揺らいでいないか、振り返ってみるといいでしょう。そして、寄り添う会話やスキンシップを増やしましょう。

 

 また、お母さんたちも頑張りすぎは禁物です。全部ひとりで抱え込もうとせず、自分の味方をしてくれそうな家族や友人などに相談したり、専門家に話をきいてもらいましょう。

 

 自分に寄り添ってくれて、味方をしてくれる人の存在は、大人にも必要です。親子でゆっくり、楽しく、心の安全基地を作っていきましょう。


★「心の安全基地」のつくりかた

1. 土台となる親子の愛着や信頼関係を育もう
2. 基本は、寄り添って共感しよう
3. 穏やかなやりとりを積み重ねよう

※ 2018年2・3月号掲載


★教えてくれたひと


宮崎市 総合発達支援センター

大庭 健一 所長

小児科医。センター開設以来、15年間たくさんの子どもたちの発達相談を受けてきた。親には、「自信をもって子育てをしてほしい」と優しい口調で語りかける。